これまでの歩み

矢野美和先生の才能教育幼児学園

 
 1946年9月、鈴木鎮一先生が松本の文化人たちと開設した松本音楽院の2階に、3年後の1949年から午前保育として併設されたのが、才能教育幼児学園でした。矢野美和先生が鈴木先生の描かれる幼児教育に深く共鳴され、はるばる大阪から担任として着任されたのです。矢野先生は、ピアノ科指導者の故青木章子(あやこ)先生の姉で、戦時中に大阪で社会福祉事業と幼稚園で活躍されていたベテランでした。この幼児学園は、どの子も申し込み順で入園させ、しかも落伍者を出さない教育を行なうことを目標に、結果の成績を追い求めるのではなく、これからの学習の基礎となる集中力、記憶力、観察力、判断力などの能力を、面白く遊びながら育てることを基本としていました。
 21世紀の現代、幼児教育における集中力ややり遂げる力を育むことが全世界的に叫ばれていることを考えますと、まさに半世紀以上も早い、「先取り」の教育法であったことがわかります。

矢野先生の授業は、「魔術のごとく見事」と言われていました。
「巧まずして、豊かな内容の教えが、指先から、眼から、体から、
全身から溢れ出るのです」と表現されるほどでした


 英語、絵画、習字、体育などは、それぞれに造詣の深い専門講師が当てられ、特に語学は正しい発音を重視し、ネイティブの講師が採用されました。
 
 繰り返しの練習は最も重視されました。たとえばマット運動での「でんぐり返し」は何度もなんども繰り返すことで、より上手な美しい前転に磨かれていきました。
 
 すべての能力は生まれつきではなく、「環境」で育てられるとするスズキ・メソードの真理が、幼児教育の場でも活かされたことがわかります。後に才能教育会館、鈴木メソード研究所に場所を移しながら、矢野先生は1000人に及ぶ卒業生を40年間に送り出しました。
 

田中茂樹先生の白百合幼稚園

 

矢野先生が体調を崩された後、白百合幼稚園とかけもちで
才能教育幼児学園も担当された田中茂樹先生。3月の卒園式にて

  一方で、鈴木先生は普通の小学校でも才能教育運動の拡大を試みていました。それが48年から行なわれた本郷小学校での実験教室です。集中力を途切れさせないこと、子どもの意欲を喚起させる環境づくり、繰り返し練習の導入など、他にないユニークなプログラムを実践されたのが、本郷小学校の田中茂樹先生でしたが、残念ながら推進役の校長先生の病気退職により、3年間で閉鎖されてしまいます。
 
 田中先生は、その後、鈴木先生の要請で、75年には松本市蟻ヶ崎の白百合幼稚園園長に就任。周囲に保育園などが増えたことを契機に、現在の松本市村井に広い土地を探しあて、1980年に現在の園舎を建てられました。また、田中先生は鈴木メソード研究所副所長として、矢野先生とともに落伍者を出さない幼児教育の実践に努められました。
 

鈴木メソード幼稚園連合会の誕生

 
 こうして才能教育幼児学園と白百合幼稚園は、全国の幼児教育を推進する人たちの大きな注目を集める場となり、事実、多くの視察が行なわれました。そこで、田中先生は、白百合幼稚園での日々の実践教育に携わりながら、全国から舞い込む様々な問い合わせに、「研修会」の場を設けることで、スズキ・メソードの理念を骨格とした運動の定着と深化を目指したのです。
 それが、83年10月に美ヶ原温泉で開かれた第1回研修会でした。

田中先生(中央)と鈴木先生を囲む第1回研修会参加の各幼稚園の先生たち(1983.10)


 光が丘幼稚園(宮崎)、スズキ・メソード幼児学園(藤沢)、白百合幼児舎(福島)、才能教育メネス幼児学園(東京)、才能教育幼児学園(松本)、白百合幼稚園(松本)が参加し、混合保育の問題点、記憶力の研究、教材研究などに加え、「スズキ・メソードとは何か」と題された、主催者の田中先生の講演と、鈴木先生の「生命への尊敬と愛情」と題された講演がありました。

田中先生を中心に、スズキ・メソードの理念と実習方法が熱心に研究されました。1993年8月の出席者(上)、1995年8月の出席者(下)と、それぞれ記念撮影をしました


 いずれも志を同じくする仲間たちが、真摯に研究を重ねる場となり、 鈴木メソード幼稚園連合会として、回を重ねるごとに参加する園も増え、テーマを吟味しながら、1987年まで5年連続で松本で開催されました。しかし、矢野先生が1990年に、鈴木先生が1998年に亡くなられる中で、才能教育幼児学園自体の存続が論議され、休園となってしまいます。それでも、田中先生を中心に研修会は1989年から1999年まで1年おきに開催、2004年が最後の集まりでした。田中先生も、惜しまれる中、2009年に亡くなられています。現時点で分かっている情報を表にまとめました。

スズキ・メソード幼児教育連合会の歴史
  日程 会場 参加園
第1回 1983.10.11~14 美ヶ原温泉「円庄」 光が丘幼稚園・湘南才能教育幼児学園・白百合幼児舎・松本幼児学園・白百合幼稚園
第2回  1984.8.18~21 美ヶ原温泉「円庄」 光が丘幼稚園・白百合幼児舎・ふたば文化幼稚園・湘南センター幼児学園・東京メネス幼児学園・東京サンライズ幼児学園・幼児開発ドルフィン幼稚園・松本幼児学園・白百合幼稚園
第3回 1985.8.18~21 美ヶ原温泉「円庄」 光が丘幼稚園・白百合幼児舎・湘南センター幼児学園・ふたば文化幼稚園・幼児開発協会・松本幼児学園・白百合幼稚園
第4回 1986.8.18~21 江ノ島 幼児開発協会・光が丘幼稚園・白百合幼児舎・湘南センター幼児学園・東京メネス幼児学園・東京サンライズ幼児学園・ふたば文化幼稚園・松本幼児学園・聖愛幼稚園・白百合幼稚園
第5回 1987.8.18~21 白百合幼稚園(松本) 光が丘幼稚園・白百合幼児舎・聖愛幼稚園・湘南センター幼児学園・東京メネス幼児学園・東京サンライズ幼児学園・松本幼児学園・白百合幼稚園
第6回 1989.8.17~19  松本「サンピア松本」 不明 
第7回 1991.8.19~21 豊科「ビレッジ安曇野」   不明 
第8回 1993.8.18~19  浅間温泉「みやま荘」  不明 
第9回 1995.8.17~19  浅間温泉「みやま荘」  不明 
第10回 1997.8.18~20 塩尻「アスティかたおか」   不明 
第11回 1999.8.10~12 松本   不明 
第12回 2004.7.31  ホテルモンターニュ松本 光が丘幼稚園・ 白百合幼稚園

 しかし、2013年のスズキ・メソードの機関誌編集部によるNo.185特集「スズキ・メソードと幼児教育」と題された特集記事の取材をきっかけに、どの園長先生たちも声を同じくして要望されていたのが、今の時代にふさわしい 研修会の復活でした。新しい職員も含めて、 もう一度最初から「スズキ・メソードとは何か」を勉強したい、と強く願われていたのが印象的です。

 

 この機運が、2014年夏の「夏期研修会」復活へとつながる原動力となりました。