8月5日(土)に開催されたスズキ・メソード幼児教育研究会の夏期研修会。
今年もオンラインで展開され、過去最大の136名が参加しました!

 
 スズキ・メソードの理念に共鳴する幼稚園・保育園で組織される「スズキ・メソード幼児教育研究会」の第9回夏期研修会が、8月5日(土)、Zoomを使って開催されました。オンライン研修は、移動に伴う時間と経費を必要としないため、全国に点在する幼児教育研究会にとっては、まことに好都合のツールとなっています。その証拠に、今年は136名の参加があり、過去最大規模となりました。
 午前8時半には、各地からのオンライン会議場への入室が始まりました。司会進行役は、松本白百合幼稚園の青木知子園長先生。滑らかな語り口で、スタートしました。
 
 まずは、午前9時の開校式で双葉ヶ丘幼稚園の土居孝信園長先生からお話がありました。「昨年は、才能教育五訓を中心に考えました。今年も、スズキ・メソードのマインドをいろいろな形で共有できればと思います。このマインドには、子どもを育てる気持ち、社会人を育てる気持ち、これまでの人生を振り返りながら、その人生哲学を学ぶ場となります。その意味で鈴木鎮一先生のご著書からは、気づかされることが多々あります。鈴木先生は心理学者であり、哲学者であり、セールスマンでもありました。実り多い研修会にしましょう」
 

基調講演は、昨年、一昨年に続き、今年も早野龍五・才能教育研究会会長

 

 早野龍五会長からは、「ハイブリッドの夏〜第72回夏期学校を終えて」として、以下の内容について、お話をいただきました。
①第72回夏期学校について
・1950年代の終わり頃、本郷小学校での夏期学校に参加
・初めて、対面とオンラインのハイブリッドスタイルで夏期学校を開催
・人数制限をしたため、対面で1,200名、オンラインで500名の参加
・ちなみにコロナ前の2019年夏期学校は、2,300名の参加(うち海外から150名)
・4年ぶりに松本駅に「歓迎」の横断幕、温度計は40℃
・配信チームのコロナ禍で鍛えられ、スキルがさらにアップ
・まつもと芸術館主ホールにリモートコントロールカメラを設置
・特別講師によるコンサートは、大盛況
・豊田耕兒先生が松本に来られ、お別れコンサートのフィナーレを指揮
・竹澤恭子先生と一緒にヴァイオリンを演奏!
 
②コロナ禍の振り返り
・やってみたらできたことがたくさん
  オンライン会議の回数を重ね、高齢の指導者でもスキルが上がった
  公式サイトにおける会員のマイページも、やったらできた
  卒業録音のオンライン提出も、やったらできた
・しかし、対面とオンラインは別物
  ホールの中で一緒に楽しむのは何ものにも代えがたい
  対面で開催の夏期学校には、あちこちで感動があり、笑顔が溢れていた
 
③鈴木先生のレッスンの思い出
・決められたレッスン時間の前後のレッスンは、ずっと聴いていた
・他の生徒さんのレッスンを聴くのは大切な時間だった
・鈴木先生は一人ひとりに別の言い方をしていた
・毎回がホームコンサートだった
 
④10月に国際ティーチャートレーナー会議を松本で開催
・指導者を育てる指導者を世界中から集めて、次の世代を作るための会議
・「スズキとは何か」を深掘りする
・世界がなぜスズキに驚いたのか、その音と高い音楽性にびっくりしたからだった
・特に子どもたちの「りっぱに弾く」姿が世界に広がったことが極めて大事
 
⑤ウクライナへの支援
・ヨーロッパと日本の指導者が協力して、クラウドファンディングでウクライナスズキを支援
 
⑥国際物理オリンピック出題委員長として
・この7月に、東大入試より遥かに難しい問題を高校生向けに出題
・80ヵ国以上、400人の高校生が来日し、1日5時間の試験を2日間にわたり、実施
・日本人2人が、成績上位8%に与えられる金メダルを受賞
・「この子たちはどうやって育ったのか?」を考えてほしいと早野会長から問題提起。明らかに生まれつきでない子どもたちの能力の高さは、どこにあるのか?
 
→国際物理オリンピックを話題としての問題提起には、どこかスズキ・メソードの理念にも通じる育ち方があるのかも知れず、興味が尽きない話題でした。いずれも現在進行形の、旬の話題ばかり。幼児教育研究会加盟園の若い保育士の皆さんにも、とてもわかりやすいお話でした。


 

続いて対談企画! 
早野龍五・才能教育研究会会長と土居孝信・幼児教育研究会会長による対談

 今回の夏期研修会では、午前中の新企画として対談スタイルが取り入れられました。各加盟園にとっては、スズキ・メソードを理解する際にいろいろな質問が生まれることが多く、それらをまとめて土居会長から早野会長に聞いていただこうという狙いです。結果的に、Zoomでのオンラインでも対談が進行できることがわかり、今後の大きな推進力となりそうです。
 
土居 早野会長に質問があります。話題の非認知能力についてですが、私たちの職場ではあまり意識しなくても日頃の対応でいいように思っています。どう子どもたちに向き合えばいいでしょうか?
早野 非認知能力については、鈴木先生が何十年も前からおっしゃっていました。試験で測る能力ではなく、人と何かが一緒にできること、何かを習慣づけて繰り返すことができることになりますが、先生もご家庭も両方の意識が必要に思います。
 昔、鈴木先生は「質屋の小僧さん」という言葉をよく使ったおられました。お客様が預ける品物をどう値踏みするか、その願力をどう育てるか。そのためには偽物ではなく、ひたすら本物を見せることで本物の価値がわかる、という逸話です。中途半端な本物はダメですし、比較することも必要ありません。音楽なら、ひたすらこの演奏家のこの曲を聴きなさい、という話に通じるわけです。いかに本物に子どもの頃から触れさせるか、教わるのではなく自然にわかることです。この歳になっても、この言葉を思い出しますね。
土居 私たちも美しいこと、本物を、と園の方針に掲げていますが、その逸話は興味深いですね。
早野 我が家では、「これはなぜか」という私からの質問に、親は決して答えてくれませんでした。それは徹底していました。教える必要はないのです。興味を持ったらそれが満たされる環境を作ることです。
土居 私たちの誰もが悩んでいることは、保護者に同じ方向を見てもらうことに苦労しています。やはり、そこに「感動」が必要でしょうか。
早野 スズキ・メソードがなぜ世界的に受け入れられたかは、鈴木先生の信念はもちろん、実例をもって見せたことが結果的に「感動」を与えました。もっとも有効な手段だと思います。一つのことがきちんとできることをみんなにわかってもらうことが極めて大事です。そのための毎日の積み重ねです。できなかったことができるようになります。スズキ・メソードというお題目を唱えるだけではなく、こうなるという実例を見せることです。一つのことを集中的にやる。好きなところをやる。常に楽しいわけではないことも白状します。それを乗り越えたところに喜びがあります。
土居 園では、縄跳びや跳び箱運動、そして絵画などの場で、縦割りのクラスで目上の子に憧れを持ってスタートする姿が毎年あります。スズキ・メソードを推進する我々には、何をやればいいか、いつも考えています。一方、機関誌などで「おうちお稽古」を取り上げていましたね。私たちもご家庭での子育てに思いをはせています。
早野 夏期学校期間中に質問を受け付けると、いつの場合も同じ質問が届きます。「お家でどうするか?」という問題です。時間の使い方についての悩みが多いです。答えで共通するのは、習慣にする生活をどうつくるか、です。「今日、お稽古をしないと気持ち悪い」とか、「自分で決めたことをきちんとする」こうしたことも、非認知能力です。子ども時代にこれらを得ていると、のちの人生に大きな強みになります。いわば一生の財産です。今の年齢で一定のレベルで学ぶことで到達できると、一生の宝物になります。
土居 どの子でもできそうなことを習慣化させることですね。俳句については、うちの園では3年やります。ですから年長児は自信を持っています。一方で、若手の保育士のトレーニングにも力を入れています。昔は若手がものを言える時代ではありませんでしたが、九州の若手を大分に集めたところ、とてもピュアな気持ちを持っていることに気づきました。こうした若手に疑問を持ってもらいたいのです。例えば「スズキでなにをするのか?」と。鈴木鎮一先生のご著書『愛に生きる』を読み返すと、毎回感動します。早野先生は、鈴木先生の言葉の中で印象に残っている言葉はなんですか?
早野 やはり今日は「質屋の小僧」ですね!
土居 なるほど。ところで、スズキの一番の課題はなんですか?

早野 なかなか痛い質問です(笑)。現在、社会構造的な問題の影響を受けています。その中で、どうやって次の世代に高いレベルの先生を育てるか。やはり担っているのは人です。鈴木先生の著書がいくら立派でも、それを実践する人、先生が必要です。特別講師に肉薄するような人材をどう育てるか。昔に比べてお子さんが少ないのは仕方ありませんが、先生を育てることが本当に大切です。1年前から指導者になる料金を免除したり、さまざまなアプローチを進めています。
土居 私たちも、このスズキ・メソード幼児教育研究会を各都道府県に設置したいと考えています。私たちの課題も超少子化の中で、多機能化しなければなりません。その意味からも、月一度くらいはスズキの子どもたちや先生方に園にいらしていただき、ライブで演奏してほしいですね。生の音を聴くとみんな感動します。そうしたライブ演奏の機会を与えてもらい、もっと交流できると互いに励みになります。やはり次の世代が育たないと枯れてきますので、ぜひとも早野先生にお願いしたいところです。
青木(司会) 多岐にわたるお話をありがとうございました。主体性が大事ですが、それを発揮できるものがスズキ・メソードにあると感じました。そしてスズキ・メソードの考え方は、子どもたちの土台にも通じる実践に通じることを、改めて感じました。
 

続いて鈴木鎮一先生がお話をされている講演DVDを鑑賞 

 午前11時からは、鈴木先生の講演DVDを全員で視聴しました。1984年4月2日に松本青年会議所で行なわれたもので、演題は「どの子も育つ 育て方ひとつ」です。鈴木先生は当時85歳でしたが、強い信念を持ってお話しされる一つひとつが、現代を生きる私たちにもエールとなって届きました。次のようなお話です。そして講演の最後には鈴木先生作曲の「前奏と名古屋の子守唄」の演奏がありました。

・0歳からどうやって能力をそだてるのか。
・感動する音楽とは何か、芸術とは何か。
・音楽家にするのではなく、能力ある人を育てる。
・「できる」というのが能力。
・試験のための勉強ではない、人に親切にすることを知る。
・「よくやった」と褒める。「上手くなった」とは言わない。
・悪いところは、先生とお母さんの責任。
・毎日の訓練が能力になる。
・親が変われば、子が変わる。
・「気を病む」のが「病気」。そんなことを考えている暇がない。
・人に愛情を与える、人に喜びを与える、それが生命。
・生命の世界に死はない。
・110歳になったら、市民会館でコンサートをしたい。
 
 参加者の感想を司会の青木先生が聞いてくださいました。

「鈴木先生のお話を初めて聞きました。ユーモアを交え、強い信念をお持ちのことがわかりました。『愛に生きる』でもこの映像でも、まず自分が変わることが大切なんですね。『怒ることをやめました』というお言葉が心に響きました。知識だけでは変わらない、やってみること。これから実践することが大切だと思いました」

 

「二つ、心に残りました。りっぱに育てるには自分が美しい心を持っていなければならないこと。そしてできないことを叱るのではなく、できることを伸ばす。実践したいです」


 

5つに分かれて、グループワークを展開

 

 午後1時からは、グループワークです。Zoomの機能の一つであるブレイクアウトルームを使い、小集団に分かれての分科会的な活動を展開しました。一つの園で固まることなく、他園の保育士同士が交流を深めあう意味でも、昨年好評だったスタイルです。今年はさらに内容面でも進展がありました。次の5つのグループで進行しました。

グループ①縦割りについて〜リーダー:土居孝信先生(双葉ヶ丘幼稚園)
グループ②縦割りについて〜リーダー:塩谷理恵先生(さゆりこども園) 
グループ③ヴァイオリン指導について〜リーダー:下苙敏大先生(光が丘幼稚園)
グループ④行事とカリキュラムについて〜リーダー:主任の先生方
グループ⑤未満児の保育について〜リーダー:土金新治先生(認定こども園五風会)
 
 この日、ユニークだったのは、午前の早野龍五会長の基調講演で問題提起された「国際物理オリンピックで金賞を受賞した子どもたちは、どんなふうに育ったのか」へのそれぞれのグループでの意見交換を、急遽挿入されたことでした。次のような意見がそれぞれのグループでありました。
・ネット情報を超えた本物に触れてきたのだろう。
・五感をフル活動させてきたのではないか。
・学び続ける環境があり、周りの支えも充実していたろう。
・子どもの興味あること、やりたいことをたくさんやらせたはず。
・「なぜ、どうして」を流さず、一緒に考え、うけとめたのではないか。
・子どもたちだけでなく、周りの大人もいろいろなことに関心を寄せていた。
・第三者のサポートがあったろう。
・自分で乗り換える力を持った人たちではないか。
 

そしてグループワークの成果発表&閉校式

 最後は、各グループワークでのまとめを発表です。各園で抱える諸問題について、同じ立場の保育士さんたちが、真剣にディスカッションする姿を見て、今回の研修会は大変充実したものであったことを実感しました。
 土居先生からは、最後に「7時間の長丁場、お疲れ様でした。早野会長のお話、そして私との対談、さらには鈴木先生の講演DVDを一緒に展開できたことが良かったと思います。各園のそれぞれがいいライバルとして、来年はもう一つステップアップしていただければいいと思います。教育は天職です。素晴らしい感触を得ながら、これからも進んでまいりましょう」
 司会の青木先生からも「明日から保育に向かうエネルギーをいただきました」とのご挨拶をいただき、めでたく修了です。お疲れ様でした。
 

参加の保育士の皆様から、大変参考になるご感想です。抜粋でお届けします。
 

 「質屋の小僧さん」のお話では、「なるほどな」と、深く勉強になりました。『中途半端なものではなく、いかに本物を見せられるか。本物と偽物を比べるのでは なく、本物を見せ続けることで本物がわかる』とおっしゃっていて、ハッとしま した。日々の保育の中で、どうしても良いものの例、悪いものの例を示しながら、理解へと繋げる場面が多かったように思い、反省しました。 また、私自身、本物を見せられる保育者であるのか?と少し不安になり、自信のなさを感じました。今回の研修会で学ばせていただいたので、今後は自信をもって本物を示し、りっぱな子どもたちを育てられる保育者になれるよう日々努力を重ねていきたいです。

 

 グループワークでは主に縦割り保育について話し合いました。基本的に縦割り保育で過ごす園や、 曜日ごとに縦割り・横割りで分ける園、行事や教室ごとのみ横割りの園など様々な園がありました。自分自身、横割りしか経験したことがないので、縦割りでの保育の様子やどのように進めことことができ、 良い経験になりました。年長さんへの憧れは、 今の4歳児の子どももあると思いますが、日常の生活の中ではやはり横の繋がりの方が強いので、行事のみでなく年長さんの姿を見せてもらえる機会を作れると良いなと思いました。散歩やプール遊び、朝夕の自由遊びの時には関わる時間もあるので、 より年長さんや異年齢児を意識できるように関わっていきたいと思います。一方、今の4歳児を見ていると、「⚪︎⚪︎ちゃんと遊ぼう」と下の子のお世話をしたがったり、「⚪︎⚪︎くんたちと遊んでるねん」と年長さんと一緒に走っている姿も見られるので、子どもたちが自然と身につ けている部分でもあるのかなとも思いました。縦割り保育を行なっている園では、年長と年少がペアを組んでいるという園も多かったので、年少で自分がしてもらった経験を年長になり、張り切って取り組んでいるという話もあったので、実際に体験したことというのは大切だなと改めて感じました。

 

 早野先生のお話は毎回とても分かりやすく、 興味深く拝聴させていただきました。とても貴重な鈴木先生の講演映像が見られて嬉しかったですし、講演の様子を見るだけでも、鈴木先生の愛にあふれたお人柄を感じることができました。一人の母親として、 わが子が小さい時にこのお話を聞けたら良かったなと思いました。「教えるのではなく育てること」という言葉からも、鈴木先生の愛を感じます。この研修を受けるにあたり、もう一度「愛に生きる」を読み返す機会を持てたことも良かったです。

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